「存在」

ケニアの男性は決まって長ズボンを履いてる。孤児院に向かう道中、ふと気がつきました。短パンが売られているのも見たことがないかもしれません。色はほとんど黒。靴も黒がおおい。マタトゥの窓から、そんな黒の間に覗くプーさんの靴下で可愛く決めたおじさんを発見して明るい気持ちになりました。学校もないので、ゆっくり起床して荷物を整理する。ナオミが2週間目にして初めて僕の部屋の掃除を決行してくれて、トラップのように広がっていたエリックがこぼしたコーラの後も綺麗になくなりました。これで安心して歩ける。11時ごろにモールにお菓子を買いに行ったのだけれど、カードを持っていないことに気がつく。普段はポケットに多くても2000円以下の札とコインを忍ばせて出かけます。この日は800円くらいしかなくて、600円でクッキーとポテチを買ったら200円しか無くなってしまった。その半分で久しぶりに悪くないコーヒーを飲む。世界地図とメモ帳を広げ、これからの経路を考えました。すごく大雑把にではありながら、改めて悩む。いつもは明日なんてなくて、今日その日のことだけが頭の中にあるけれど、そうばかりもしていられない。行きたい地域と日数を照らすと、時間に余裕はあまりないことがわかりました。長いようで、文字に起こすとものすごく短く感じる。最長でも残り7ヶ月というところでしょうか。


平日の生徒と先生の関係から、休日は子供と遊び相手の関係へ。昨日とは打って変わって、この日は朝から短気な気分でした。たぶん寝られなかったことが原因だと思いますが、朝からベッドにいて聞こえて来る会話がやかましかった。これは1日続きましたが、子供を前にしている間はどこかへ消えてくれます。5時間ほど、ひたすら遊び続ける。何回彼らを担いだか。運動不足にはちょうどいい。写真が大好きで、向けるとポーズをしてくれたり。僕から奪って、なかなか味のある写真をフォルダに残してくれます。地面に引いた線と石を使ったゲーム、三本の長い枝を平行に並べ間をジャンプで飛び越えるゲーム。身長半分ほどの彼らに圧勝を繰り返す大人気なさ。遊ぶすぐそばに牛が2頭繋がれていて、それにどれだけ近づけるか度胸試しをはじめる。立派な角を持っていて、遠くから見ていても心配になってしまうのですが、飽きもせず続けていました。棒で叩いたり、石を投げたりする残虐性に辞めさせたかったけれどなんと言ったものか。「動物は友達だよ」野菜中心の生活に、牛肉の恋しい僕が発するには不適切だ。結局は曖昧に「優しくしてあげたら」くらいしか言えませんでした。彼らからしたらスリルの味わえる、貴重なアトラクションです。それなりに喧嘩とかもするから、止めようと試みたり。小学生くらいの年だったら、まあ当たり前のことか。時間が経てばまた一緒に遊び出す。


いつも重いものを運んだり、仕事熱心な彼らは12歳くらいになると少なくとも僕より力持ちです。油断すると2人がかりで持ち上げられ、運ばれる。完全に舐められています。彼らが1人で10分近く道のり持って歩く水の入ったタンクを手伝いたい一心で引き受けたところ、持ったまま30秒と進めない。情けないばかりです。この施設のオーナーの家がそこにあって、子供たちは洗濯をしたりと働いている。これは割合立派な家で、おもちゃなども揃っている。クラス子供も綺麗な衣服をまとっています。施設とそこの子供たちもと比べると、もう少しそちらにも回せるお金があるのではと思ってしまいますが、深入りはできません。運営すること自体、常人にはできない立派な行いです。庭にトラックが入ってきたと思ったら、子供たちは跳ねて喜びを表している。何かと思ったら、荷台から降ろされる大量のチーズ。大きい透明の袋に、ぎっしり何袋も。施設にも子供たちによってたくさん運ばれていたので、こっちまで嬉しくなる。結局5時半までここで過ごし帰路につきました。坂の途中に学校があるので、その上まで何人かが見送りに来てくれて、ハグをして別れる。帰り道でも学校に通っている子供たちが「ゆうた先生」と叫んで、手を振ってくれる。とてもいい気持ちです。海援隊の「贈る言葉」をバックにしても、違和感のない光景だと思います。2週目が終わり、あと1週間。あっという間です。しきりにいつまでいるかと聞かれ、答えては「もっといてよ」「また来てね」と言ってくれます。予想していた以上に、ここに来ることができてよかったと思っています。先日書いたことと重複しますが、こういう境遇にいる子供たちがたくさんいる中で、ここで過ごし、他でもない彼らに出会えたこと。そのことを大切にしたいと思います。成長を見守れたらという気持ちが増すばかりで、いつか一緒にお酒でも飲めたらなんて考えていました。まさかここまで入れ込むとは。


"その時が一度きりなら

一人しかいない私が

一人しかいないあなたと

こうして今出会えたこと

それこそに意味があるでしょ"

いいくぼさおり「存在」より


恩人に教えていただいたこの歌を、施設に行く前にひさしぶりに聴いたので、今日はより強く彼らと会えたことを大切に思ったかもしれません。いろいろなことがある日々の中で、たまに聴いた時には決まってほろりと、そして前を向く勇気をもらいます。僕にとっては非常に想い出深く、何か下を向きたいような気分の時に聴いてもらいたい1曲です。いや、ぜひ聴いてください。普段はロックナンバー中心の生活ですが、こういうのも好きです。古今東西問わず、音楽が好き。この旅中も何度もその力に救われてきています。なくてはありえないものの一つです。ノーミュージック、ノートラベル。


ルームメイトがビーチに行ったので部屋を1人で使っています。思い返してみると、この約50日で5日ほどしか自分だけで1室を使っていません。それ以外はたくさんの違う国籍を持った人々に囲まれているか、乗り物の中か。これも我ながら簡単なことではないと思います。日本だと人がいるとあまり寝られないタイプだった気がしますが、環境適応力が働いてくれているのでしょうか。寝不足で悩むようなことはほとんどなく過ごしています。むしろエリックがいない日はうまく寝られなかったりする。もう日常が逆転してしまったのかもしれません。思ってもいなかった自分を発見するのも、旅の面白さです。


晩御飯の時間、決まってナオミがテレビをかけます。いつもは現地のコメディがほとんどですが、今日はなんと日本の筋肉自慢の男たちが走ったり、跳んだり、落ちたりと忙しい「サスケ」が英語の字幕付きで放映されていました。それもミスターサスケの躍動する10年以上前のものだと思います。懐かしい緑山スタジオ。子供の頃好きだったので、たぶん見たことのある回だったはず。好きだったにしては、いつからか運動と筋肉には無縁になってしまった。1stステージのみで放送は終わり違和感だらけでしたが、日本語そのままの解説に少し元気付けられました。隣にいたケニア人、カナダ人の反応が面白かった。コメディの中に出てくるツッコミだらけの空手やサスケといい、現地のテレビ局は自国民に日本人の武闘派なイメージを持たせたくてしようがないみたいです。いい迷惑だ。


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