メトロに乗って、ラクダに乗って

前日は9時ごろベッドに入って、9時に起きました。遅い時間の飛行機でほとんど寝られていなかったから。エジプトのホステルは安い上に朝食付きが多いから、それだけで満足感が強い。パンとイチゴジャム、チーズにヨーグルト、バナナ。バナナはきっと世界のどこでも朝ごはんとして食べる人がいるのではないか。これにコーヒーがついて、満腹感の得られた朝食も久しい。やっぱり朝からしっかり食べると活力が湧きます。ということで、エジプトと言えば、そうピラミッドに行ってきました。ベタだけど、とりあえずはここに行かなければ始まらない気がして。ホテルの人に行き方を聞いて、昼前にいざ出発。


地下鉄に乗りました。これもなんだか懐かしい響き。宿から3分で駅に到着。入場する際は手荷物を飛行機と同じように機械に通して、金属探知機をくぐる。安全のためなら喜んで協力します。そんなにしっかり見ている感じはないけど。思えば日本の電車はかなり無防備な気もします。それだけ安全な国ということなんでしょうが、いざという時は恐いなと思いました。同じように金属探知機が設置されるようなことがないことを願います。そして驚きなのがその価格、なんとどこにいくにも1ポンド(6円)。物価が安いとは言え、これは衝撃的でした。電車ならチップも払う相手がいないし、これだけでいけてしまう。清潔とまでは言わないまでも、なんの文句もない充分な設備。ギザ駅までは15分ほど。メトロに乗ると少し日本にいるような気持ちで、価格も相まってこれははまりそうです。


そして駅からはバスに乗らなければいけない。これも2ポンドだと聞いてたので、意地でもタクシーには乗らないぞと決意。ただ駅から出ると道は分かれている。タクシーのしつこい勧誘を断って、その男がバスロータリーだと行った方向に歩いていると後ろからおじさんが肩を叩いてきた。「そっちにバスはない」。地図もネットもないから、言われた方向に行く他ありませんが、エジプトではこのスタンス苦労する予感がします。この男性が自分も同じ方向のバスに乗るからと、正しい方向に連れて行ってくれました。ただあまり簡単に人を信じても危険なので恐る恐る。英語が流暢だからきっと教養のある人だろうと少し安心して。アクバルおじさん。結局彼がバス代も払ってくれて、お礼を言うと「俺の息子と同じだから」という温かいお言葉。もう完全に信用して、バスに揺られて終点へ。途中いろんなことを教えてくれました。アクバルはこっから1km先の病院へ行くと言って、ピラミッドの入り口の近くにある旅行会社まで連れて行ってくれた。その時覚悟しました。「これは金がかかるぞ」結局彼がその店の回し者だったのか、善意からこの場所を勧めてくれたのかはわかりません。それでも彼がいなかったらたどり着くのに余計に1時間ほどかかったはずだし、彼はときおり本当に体が悪そうな仕草をしていたから。善意によるものと、そこにお願いすることしました。高所恐怖症で、前日友達に絶対乗らないと宣言したラクダに気がついたら乗らなければならないことになっている。僕の知る限りゾウ、キリンに次ぐ大きさを誇るラクダは、立ち上がるとマンションの2階近い高さがある。足が短いからなのか、安定もしなくて少しでもラクダに嫌われたらすぐに振り落とされそうだ。そしてコースは大中小とあって、中でいいかなと思っていると横からアクバルが「大がいいぞ」ならそうするか。価格は5000円ほど、安くはないけど2度来ることもないだろうからこうなったらとことん満喫しようと思う。


僕の想像してた風景は、バスなどで数時間移動した砂漠の中にピラミッドへ辿り着くのかと思っていました。実際は地下鉄の駅からバスに20分ほど揺られると到着。その地点だけは砂漠のようだけど、一歩外へ出ると周りはコンクリートに固められレストランやホテルなどがたくさん建ち並んでいます。ハスルという馬に乗ったイケメンガイドと2人。ラクダに乗っているのは僕ぐらいのもので、他は馬に乗っている。ハスルは遅々として進まないラクダに苛立って、僕に鞭を渡し叩くように言う。これは僕としてはすごく心が痛んだのだけど、確かに歩を早めてくれる。こうなると今度は落ちそうになるから僕としてはゆっくりゆっくり進みたい。このガイドはなかなかにパンクで、「見つかると俺が逮捕される」といいながら登ってはいけないという小さなピラミッドに登らせてくれたり。本当にいい加減ですが、撮影禁止の場所も少しお金を渡すと許可されたりと、もうなんの秩序もない。あとは頻繁に僕のカメラマンをお願いせずとも務めてくれたのだけど、こっちの要望ではなくガイドがピラミッドを摘んでいるように見える写真を撮りたがる。ありがちな写真がSDカードに。すごく楽しそうな構図に、顔だけぎこちない笑顔。そしてガイドに要求されるチップ。事務所に帰ってからも続くお土産のススメ。初めて買ってしまいました。「千夜一夜」という名前の香水。無事に持って帰られる気がしない。結局いくら払ったのか、正直わかりませんが。これは飾りなく面白かった。自然遺産の雄大さもさることながら、人間の力もここでは強く輝いています。


実際にこの目で見たピラミッド。バスの窓からてっぺんを覗いた時の高揚感。世界遺産をひとつ挙げろと言われたら、これが思い浮かぶ人も少なくないはずです。そんな場所に来られた充実感が溢れる。大ピラミッドが3つ、小ピラミッドが6つ。計9個がここにはあります。それを一望できる地点から見た風景。思ったよりも小さかったスフィンクス。5000年前に人力によって造られた事実は理解できても、想像だにできないその規模。ダムが作られるまで、そこを流れていたナイル川の痕跡。大きいのは正義だと思いました。これは何にでも当てはまる、はず。この国が持っている歴史の壮大さが羨ましくもなる。文明のゆりかごには、便利なものに囲まれた今の時代では生み出せない、人間の力強さが宿っているように感じました。そこに君臨した王、使役された名もなき無数の人々。亡くなった方も数知れないこととは思いますが、努力の結晶は時代と地域を遠く離れた僕の目にも映りました。本当におつかれさまです。2度と乗ることのないであろうラクダの背に跨った、僕の生も少し強さを授かったような気持ち。


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お金のことになると目の色を変えるエジプト人ですが、それは歴史の中でつくられてきた習慣のようなもので。親切です。けっして悪い人たちではない。訪れる際は、最小限の金額しか払いたくない場合は話しかけられるのに耳を貸さないことです。僕には後悔はありません。それだけのことを体験できました。どこかで余分に節約すればいいじゃないか。大丈夫かな。