コンクリートジャングル

昼過ぎに宿を出てバンコクへ行くバンを探す。ホステルの従業員が教えてくれた場所(セブンイレブンの前)に行ってみたものの、それらしいものは見当たらない。ここでは5分も歩けばセブンイレブンが1つはあるから、他の店舗のことだったのか。近頃はなかった、道行く人に尋ねまくる古典的な方法で停留所を求めて歩く。誰も気さくに、笑顔で教えてくれる、タイとはやはりこういう国です。やっとみつけて安心、バンコクまで60バーツで連れて行ってくれるらしい。公共機関がこの運転、日本ならすぐに業務停止命令を喰らいそうな、スピード、ブレーキ、僕を襲う睡魔も、ことあるごとに去っていく。そしてまた襲う。そんなことでバンコクに入る。思っていたより、中心部、泊まる宿からは遠いところで降ろされて、目の前には駅がある。


長距離列車、寝台車などは何度も使ってきましたが、都市部での短い電車を使うのは初めてです。その車体からも、また車窓からのぞく風景からも、この都市の発展具合に驚かされる。それは電車に乗り込んでから、30分ほど経って降りるまで、ずっと続きました。立体になった道路、建ち並ぶ高いビル。何より清潔な車内、CMが流れるモニター付き。バンコクがどのような場所かぐらいは知っていろよという声、最もです。トランジットではここの空港を使い、機上からかなり栄えているらしいという印象はあったのですが、これはもう大都市です。ものの質感が多少落ちるとはいえ、日本の都市で比較できるのは東京くらい。普段はせずに、帰った後にしっかり照合しようと思っていることですが、GDPを調べてみると、人口が物をいう指標ながら、今まで訪れた国で最上位に位置することを発見する。僕がどんな感想を抱いたか。そこには懐かしさ、安心感。自然について偉そうに弁を垂れたここ最近、急に態度を変えて、定まらなさが痛いところですが、自分はやはりコンクリートジャングルの中で育ってきた。習慣、信頼、それらによって生まれる親しみの情は、家族や友人はもちろん、囲まれてきた環境、物質、そして行動にまで及んでいます。そういうものは今さら変えられないし、自分で選べるところも多くない。


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一度宿に着き、電車で流れたCMの中に見つけたUNIQLOにどうしても行きたくなりました。出発まで2年間アルバイトをさせてもらったところ、会っていない友達に会うのと同じ感覚で。4kmの道を歩いて、途中大きなデパートを何度もやり過ごしながら、ラーメン屋を横目に食欲を刺激されながら、1つの商業施設にたどり着きました。大きく、高いこの中には世界的に有名な高級ブランドも多くありました。UNIQLOも扱われている商品はほとんど同じ、ただポスターなどはタイ人のモデルが起用されていて、密着を目指していることがうかがえる。何度も畳んだ商品を見て、必要に駆られてしていたバイトも、今だけはポジティブばかりに捉えられる。何かを買うわけではなく後にし、エスカレーターを上ってみる。そこにはなんと紀伊國屋がありました。そしてここにきて、僕の気持ちの高まりは最高潮に達する。もしかしたら日本の本も。期待通り、心を優しく撫でてくれるように、そこにはたくさんの書籍が並んでいる。人もたくさんいる、タイには日本人が本当に多い。バッグはもうほとんどスペースがないのだけど、文庫本を2冊購入。目が潤んでいました。


こうして僕は日本に帰ってきた時に味わえるだろう大きな感情を少し縮小する形で、その場しのぎな幸福を得ました。また引き寄せられるように映画館の方へ行き、ほぼ無意識にチケットを購入している。1本100バーツ。IMAXとかそういう言葉も当たり前に並ぶ。タッチパネルによるチケット販売。きわめつけはラーメン屋。そして流れていたのは尾崎豊。日本語で行われる接客。ラーメンと餃子。もう止まらない。21時半の映画を前に3時間ほど、1度宿に帰ることにしてまた1時間ほど汗を流しながら。この旅のおかげで好きになれたものの中に、日本はおろか、東京という街を加わりました。幸不幸、僕はコンクリートの中で育ち、帰る場所も今はそこにしかない。そこからあまりに離れた場所で暮らすことは少なくとも今はできないだろうと思う。


シャワーを浴び、着替えて再び映画を観に出かける。さすがにここは電車を使って。最新作の情報なんて少しも入ってないので、SNSで友人たちが話題にしていた恋愛もののミュージカルを1人で見る。周りはカップル、夫婦ながらも気にせず、始まる直前に亡くなった王様への追悼の映像が流れて、全員が立つことを強要される。この時に、少し魔法が解けたかのようにタイにいることを思い出しました。ラストに切ない気持ちになって、帰りはまた歩いて帰る。これでトータル10km以上、最近は歩いてばかりいます。なんだか、久しぶりに切ない気持ちになって、映画のチョイスは正解ではなかったと思う。何をすることもできない今、くだらないコメディなどが最適だったかな。そんな行き場のない気持ちを、くるりを聴いて更に複雑にさせながら、帰ったのは深夜1時。名高いレディーボーイの多さへの心配も、この時間まで車通りの多い道をまっすぐに進むだけなので、遭遇することもなく。眠る気も起きないので、ロビーでしばらく読書をしてやっと就寝。


なんというか、僕はもう日本にいました。カラオケを前にした時は、よっぽど入ってやろうかとも思いましたが、せめてこれだけでも取っておこうと思いとどまる。これから始まるインドや南米での日々の前に、いい息抜きに。圧倒的な都会も、久しぶりにみるとよく見える。間違いなく今日は、人生で一番、それをいいものだと思いました。お前は海外で何をしているのかと言われれば、確かにそうだけれど、我慢をするために来ているわけではありません。その国がそのままわかればいい。バンコクはこんなことまで出来る街でした。小旅行で来れば、絶対こんなことはしないだろうけど、今の僕は可能であればしたいと思う出発から3ヶ月。


チェンマイが第2の都市と言われることから想像していたバンコクとは全く違って、ここだけはもう別世界でした。同じ国とは思えないというのが率直な感想。都会に行けば行くほど、ホームレスの方を見かける。そんなことも添えて、あと数日、この便利さを満喫して行きたいと思います。


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夢がなくて、すみません。この近くにバックパッカーの聖地があるなんて信じらない。