東西に架ける橋

 つい先日までインドにいた僕にとっては、イスタンブールは「なんて綺麗なんだ」。踏んでブルーになるようなものも落ちていない。野良犬にさえ品を感じる。一定の秩序がある。人に助けを求めると、丁寧に手を差し伸べてくれる。そんな環境ながら、近年テロが頻発している地域でもあります。エジプトのカイロに行った時と同様、目に見えないものに対する緊張感はあります。治安がいい、穏やかに流れる時間に潜むその可能性は、絵に描いたような街並みで満たされた自分の視界に一つの黒点が入り込んでいるように、頭から離れない。そして離さない方がいいとも思う。


 ガルフエア。デリーから乗る予定だった飛行機ですが、フライトスケジュールの電子掲示板になぜか記載がない。4時55分発。4時45分と5時発の飛行機の間には何もない。これにはかなり不安になって、何度もインフォメーションに行き確認する。待てば大丈夫だと言われても納得できない。デリーの他の空港なのではないか。落ち着けないまま、ざわめきを抑えようとサンドイッチを食べる。深夜1時、数あるカウンターの隅っこに開いたガルフエアのカウンターを発見して、ようやく存在を確信できた。安さだけで選んだ、聞き覚えのないこの航空会社はバーレーンのナショナルキャリアでした。もしサッカーが無ければ、その国があることさえ知らなかったかもしれません。バーレーンで一度の乗り継ぎ。地は踏んでいないものも、僕はこんなところにも来ています。空港の清潔感、窓から見る景色はイメージの皆無だったこの国に、偶然知る機会を与えてもらう。待合室にはたくさんのカフェと種類豊富なパンが列をなしていて、空腹をくすぐられる。きっといい国だろうと思う。そんなことを経てついたのがトルコです。とはいえイスタンブールは極西に位置し、他の都市に行くよりもギリシャに行く方が早い。トロイやカッパドキアなど有名で魅力的な場所もありますが、今回はスルーします。気球に乗るカッパドキアは旅中おすすめもされましたが、何度目の主張か、高所恐怖症。それはもちろん、事故がたびたびニュースになるからと思っていると、つい先日も旅行者の方が亡くなったというニュースが舞い込みました。その土俵に立つ勇気もなかったけれど、やっぱり行かなくてよかったと思う。


 空港からの移動に地下鉄を使える、その時点で既に今までとは違う。ICカードを購入してから、チャージ式の移動。日本と違うところは価格が10分の1以下であるところだけ。欲しいものがすぐに手に入るスーパーなども、簡単に見つけられる。新しいところに来たという実感は、到着後すぐ確かに押し寄せてきました。コンスタンティノープルコンスタンティヌス帝。ローマ時代の強い名残のある風景の中に、オスマン帝国、数え切れないモスクが点在する。それも一つ一つがかなり大きく、立派なものばかりです。全貌は見えなくても尖塔が何本も生えている。ヨーロッパとアジア、東西の架け橋。学校で習った通り、その混合の中にありました。ヨルダン以来の中東でもあり、食はもっぱらケバブ。2日とちょっとの滞在、売店のパンとトウモロコシ以外は全部これ。インドではほとんど食べられなかった肉を摂取できる上、炭水化物に野菜。これほど完成されたファーストフードは他にないのではないか。頬張りながらそんなことを思っていました。


 1番の目当ては何と言ってもブルーモスク。初日から路面電車の中から見て興奮しました。外装は白がメインで、6本ある尖塔が特徴的です。こればかりに目がいって、背後にあるこちらも有名なスルタンアフメトモスクには内覧を終えるまで気がつきもしませんでした。ハードな移動もあってか、最近視野が狭くなっていてならん。ブルーモスクと言われる所以はやはり内部です。青を基調としたステンドグラスが前面に配置され、壁も一面イスラム文様が敷き詰められている。一つの柱を取っても、飽きるまでには時間がかかる。入場時間に制限があるので、それがなければいつまでも座って眺めていたいくらいでした。数あるモスクへ行ってきたけれど、今回の旅ではこれで最後になるかもしれません。その中でもここの荘重さというのは、エジプトのムハンマドアリーモスクと並んで記憶に残りました。これまで21年間、モスクというものに入ったことがなかったし、内部がどうなっているかというのも全然わかっていなかった。その魅力に取りつかれるばかりです。遠かったイスラム教のイメージに、今ははっきり美しさが加わっています。エジプトのものほど自由にはできず、信者以外は後方の部分にしか入れないのが残念ではありました。それと木や建物に邪魔されて外観をうまく写真に残せなかったこと。上から見下ろせるようなところを発見できていればというように、外観もかなり見応えのあるものでした。


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 他の名所も場所は抑えていたのですが、それよりも街そのものに興味を惹かれて。先に述べたように、ヨーロッパのような造りは僕に取って初めてのものだったので。歩くこともウキウキ。それにゆっくりしたくなるようなカフェやおしゃれな小物屋など、しばらくご無沙汰していたものが、日本以上にいい雰囲気の中に構えている。最終日はバスが夜だったのもあって、昼間はそれらをめぐって楽しみました。エジプトからヨルダンへのフェリーでは紅海の上に浮かびましたが、今度はエーゲ海を橋の上から眺める。船がたくさん浮かび、交通網も陸上同様に発達しているようでした。そして何と言ってもイスタンブールは猫がたくさんいます。インド北部は全域でその数が少なく、圧倒的に汚い犬たちが優勢を保っていましたが、ここではむしろ猫。猫派にはきっとたまらないと思います。人馴れもしているのか、近寄ってくる子たちも多いし、数頭で群れをなしているようなことも見かけました。彼らは本当にいいですよね。こちらまでのんびりした気持ちにさせてくれる、ありがたい存在です。それに僕に取っての中東圏はいつも寒い場所でした。それ以上に暑いところにいたのもありますが。ヨルダン以来だろうか、また久しぶりに靴での生活を再開させています。これがもうひどく臭くなってしまっているので、一度洗わなければ。温度管理できるだけの設備があるので、体調はむしろ上り坂です。お伝えしていたように、足早にもう次の国を目指します。イスタンブールのスポットは基本的に密集していて、どこも徒歩圏内にあります。この日程も正解だったと思えるような、コンパクトさは僕にはちょうど良かった。


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 思い通りにならなかったこと、自分でも誤りだったと思うこと。そんなことは道中たくさんあります。普段の生活の中でなら、誰かの存在に甘えて言い訳をつくってしまったりもするのですが、ここでは原因も結果も全て1人で受け止めなければなりません。側で泣き言を聞いてくれる存在もいないことは、かえってそれらがいる場所を懐かしく、かけがえの無いものだと意識できるようになります。もうどうしようもなく落ち込んだりすることもあって、後に引きずりつつ、なんとか消化していく。生きていく強さも学べているのでは無いかと思います。うまくできない時もあるけど、どうにかもがきながら。これらの溜まった愚痴は、後々の酒のつまみにさせてください。そしていつもありがとうございますって、改めて。これからどんどん、どんどん深くヨーロッパに。その見た目の優しさに油断しないように。