London Calling

 こちらロンドンより。単純な性格、朝からiPodthe clashをかけながら意気揚々と出かけます。ここで聴かなくては、どこで聴くんだというような気持ちです。まず何より、イギリスは物価が高い。コーラも街中で買うと200円は下らないし、ホットドッグ一つで500円はします。この国に来たからには、やっぱりフィッシュアンドチップス。僕は屋台が並んで手頃に買えるファーストフードであると思っていたのですが、これはもうレストランがメインで食べるのに1000円はかかる。別段美味しいというわけでもないらしいから、結局食べずじまい。今日もスーパーで安い食材を調達することに精を出しています。さずがに品揃は多くて、決めるのに悩む。同じところを何周もしてしまう。この時間が結構好きです。前々から予約してあったホステルは、この物価ハイ都市にありながら一泊2000円を切る破格の値段。というのも中央に人がすれ違えるかどうかという狭いスペースの両サイドにびっしりと、それも首を曲げなければ上に頭をぶつけてしまうような3段ベッドが並ぶ15人部屋。この半年、誰よりも多くの人たちと同じ部屋で寝てきたのではないかという僕の経験から言わせてもらうと、仲良くなれるのは6人部屋がいいところで、あまりに収容量の多いところはコミュニケーションも生まれにくい気がします。人の数だけ出入りも増えるから、深夜までドアの開閉音が絶えない。しかし値段には変えられない。それに朝食も付いていて、それだけでいい1日が始まります。


 正直どこまでが旅行者で、どこからが現地の人なのか、もう見分けがつかないこともしばしばです。そんな中で、この国の肥満率はもうちょっと心配になります。シュッとした英国紳士が想像のイメージは到着後間も無く打ち砕かれ、なかなか見ることがないレベルに肥えた方を頻繁に見かけます。どんな食生活があなたをそうさせたの?これだけ物価が高いと、しっかりとした収入がない限り、栄養の整った食事を摂ることは難しいのでしょうか。確かに僕も今の食生活を続ければ、遠からずぽっこりお腹になりそうではある。少し度が過ぎて、触りたいという気持ちも起きないほどです。一方でジェントルマンの気風は随所に感じるところがあります。親切な振る舞いはいたるところに溢れていて、お礼を言うと、表情を崩さず当たり前だと言うような顔をする男たち。かっこいい、これこそイギリス、けどそのお腹がね。


 僕の専攻はこの国の文学、文化が主たるところなので、思い入れは強くあります。それでなくても好きな音楽、小説はこの地で生まれたものが多い。言わずもがな、よく舞台として使われるロンドン。夕食を食べた後に散歩として、ベイカーストリートを歩き、アビーロードへ。そんなことをして楽しんでいます。やっぱりメインはビートルズで、ルーフトップアクションが行われた建物、ジョンとヨーコが出会った個展が開かれていた辺りをうろうろ。交通量のヘビーな街なので、最新の輝く高級車にあまり昔にタイムスリップしたような気持ちにはなりませんが、ここで確かに行われたことがある。そこに僕は立っている。いろんな人物が少しずつ輪郭を強め、自分と彼らの距離が少しずつ縮まる。大きな公園がいくつもあるロンドンは、そこで昼寝をしたり。何よりもありがたいのは博物館が基本的に無料であること。これは太っ腹です。大英博物館、英国自然史博物館にいってきました。期待値からするとああこんなものかというのが正直です。コレクションは膨大ですが、質でいうとルーヴルやバチカンの方が魅力的だったかな。ギリシャで行ったパルテノン神殿、装飾がほとんどなくなっていたのがここに展示されていて、大英帝国が世界から半ば強奪してきた泥棒博物館とも言われる所以も感じ取りました。もちろん保護して側面があったとは思います。タワーブリッジ、ロンドンタワー、ウェストミンスター宮殿、ビッグベン、バッキンガム宮殿。様々な創作物の中で触れてきたこれらは、ベンチに腰を下ろしながら外から楽しみました。内部に入るには入場料から躊躇われたり、それこそ創作物が埋めてくれます。ロンドンへの移動の間に、姑息に夏目漱石の「倫敦塔」を改めて読んだり。あんなに歴史の暗部を前提にしてそれらを観光している人は、表情からは見当たりませんでしたが、スマホもない当時に、道行く人に何度も尋ねながら目的地を目指したという記述はその通りだろうなと。現代で良かった、臆病者も母国を飛び出せる時代。


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 4泊してから今度はリバプールへ。道が混んでいたことから予定より2時間近く遅れて8時間ほどかかりました。その道中、車窓から見る田園風景は、道路、それを行く車、電柱などはありながらも、ジェーン・オースティンの生きた時代を垣間見るような心地。夕方につき、間1日、次の日の朝には再びロンドンへ戻ったので、自由に使えた時間は長くはありませんでした。それでも港町の風情を感じたり、ビートルズトーリーや、ペニーレインを散策。彼らが演奏したバーは今も変わらずそこにあり、毎晩音楽に包まれています。中心を離れると、映画などで観たような変わらぬ街並みが広がっていて、騒がしくないのも手伝って、穏やかな時間が流れる。


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 そして再びのロンドンではハイドパークから歩いて5分ほどのところにあるホステル。やることも思いつかなかったので、飛行機に乗るまでの2日間はそこで贅沢な時間の使い方をしました。途中虫などに意識を乱されながら気がついたら半日くらいたっている。めまぐるしく舞台を変えたヨーロッパ周遊は終わりを迎えました。日数と訪れた国と都市の数を改めて並べてみると、あったことが嘘のように、本当に多くのものを見た。そしてメキシコへ。何度か味わせてもらって来た大陸の移動、違う文化圏への突入はいつも興奮と不安の狭間に立ちます。


 ロンドンに到着して数日後、マンチェスターでのテロがありました。朝起きて友達から届いたメッセージでそのことを知る。イギリスにはその脅威がまだ遠いことのイメージを抱いていた1人として僕には衝撃があったし、隣街リバプールに行く際は、特別な緊張感。大きな銃を抱えて巡回する警察の姿をよく見かけました。そして去ってから1週間ほどして、ロンドンでのテロが起きました。凄惨で目を覆いたくなるような現実に、その場所につい最近までいた者として、日本にいて見るニュース以上に、自分とも関連を思いました。旅程が少しずれていたら、あるいは巻き込まれていたかもしれません。犠牲になった方々の冥福を祈りながら、自分が生きていることを思います。危険性は知りながら、自らの身に降りかかることを予測することは難しく、「自分は大丈夫だろう」と思ってしまうのは僕だけではないと思います。ましてや観光客が溢れ、賑やか、華やかなあの街で。ニュースが自分のことでない幸せを、不謹慎だとは思いながら抱かざるを得ません。本当に馬鹿げたことです。こんなことが起こらなくなる未来を。明るい未来を。