アフリカ大陸奇譚

僕の生活しているホームステイ先。アパートの一室で、ドアを開くとすぐにテレビのあるリビングになります。この部屋には奇妙なことがいくつかあります。まず時計は常に11時2分2秒を指して止まったまま、電池を替えるような努力は今のところ見られません。次に壁に掛けられた2つのカレンダーがどちらも2014年のものであること。すでに3年が経過したことを思うと、新調しないまでも外すべきです。単体でなく複数であることは、何か大切なものを失い、この年から時が止まっているというような暗示にも感じられるます。ナオミには11歳と5歳、2人の娘たちがいる。到着2日目から学校が始まり、彼女たちは学校で寝泊りをしているので帰ってきません。旦那さんには会ったこともなく、存在を尋ねることも憚られるので謎のままです。テレビの上に飾ってある10枚近い写真はどれもナオミばかりが写ったもので、夫はおろか娘のものもありません。彼女は決して美人というわけではないので、装飾から溢れる自らへん自信が羨ましい。アフリカの美は僕の感覚から離れたところにある可能性もあるので、これ以上の言及はよします。テレビの向かい側の壁には窓とベランダへのドアが付いている。その間にサイズの違う4脚、ゼブラ柄のソファがあります。最後にこの部屋に最も異様さを加えているもの。窓の上のスペースにお皿などが飾られているのと並び、スターウォーズに出てくるジャージャーの顔だけの置物があります。これの片目が折れて無くなっている。それが1つならまだしも、途中色々なものに挟まれながら3体置いてあり、全て片目が取れているのです。左目のないもの2体、右目のないもの1体。映画自体は世界中に愛好家がいるだけの作品であることはわかりますが、それにしてもこのキャラクターであることは不可解です。それもリビングに、アフリカやアジア系統の置物がある中、同じ場所に壊れても置き続ける精神。まったくわからず、誰も気にかける様子がない中、食事を摂るこの場所に来るたびに気になって仕方がないのでした。


食事は朝食と夕食を家で、昼食は学校でいただきます。朝食は文化的に質素ということもあり、紅茶とパンかドーナツのようなものが用意されているばかりです。日によって卵やフルーツが付いています。学校で子供達と食べるご飯はウガリ(南アフリカでパップと呼ばれていたものと一緒)に何かしらの豆か野菜のどちらかが添えてあります。そして間食に白くドロドロとしたトウモロコシなどをすり潰したようなものをもらいます。名前を忘れました。子供達は美味しそうに食べますが、基本的に色の白いものばかりで栄養価は未知数です。期待できません。ガタイのいい子もいるのを見ると十分に栄養があるか、体型は生まれながらにある程度決められているのかもしれかい。これらで夜まで動き、多少期待してしまう夕食ですが、米やウガリなどの炭水化物にそれに混ぜて食べるおかずが一種類用意されているのが通常です。2食ウガリが続くと少し参る。タンドリーが頻繁に使われるので、調理中薫ってくる匂いに鶏肉を期待させられますが、まだ肉が出たことはありません。豆類で辛うじてタンパク質を補給できているかどうか。おかわりはできるので1、2回しますが腹持ちには優れず、すぐにお腹が空きます。肉への思慕も募るばかりです。しかし好き嫌いが全くないので、その点はかなり楽な思いをしてます。下手物、見た目的にまず無理というものには幸いまだ遭遇していないので、次なる試練になるかもしれない。味の他にも問題はあります。このプログラムに参加してからは使ったものを自分で洗うことが求められます。洗い物自体に抵抗はありません。しかしその方法。2つの桶に水が汲んであり、まずは1つ目で洗剤とスポンジで汚れを落とす。2つ目で洗った食器の泡を落として終了。ナイロビで大人数で滞在していたところでは、人数を経るごとに桶の水の色は変わっていき本当に大丈夫なのかと。ヌメヌメした感覚を完璧に取ることは難しい。水不足とはいえ、僕には引っかかります。学校はよりショックが強い。まず食器はプラスチックであり、宴会などで使う僕らが使い捨てで購入する皿やコップもここでは何度も洗って使われます。洗うための桶もここではバケツです。それに子供達の数も多いので、終わる頃には水は黒くなり2つ目の桶もきれいには見えない。僕も当然これらを使うのですが「大丈夫なの?」という心配は頭から離れません。それでも食後すぐに子供達でこの作業に取りかかるのを見ると、感心させられます。偉いよなあ、本当に。そしてこれは僕の主な仕事の1つにもなりつつあるのでした。


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メシーという女の子はとてもよくしてくれます。初日から石を使ったゲームを教えてくれたのも彼女でした。これが2人同時に初めて、片方が失敗しても片方が成功すればいいというものなのですが、運動オンチのせいかうまくできない僕に「助けるわ、友達だもの」と毎回言ってくれる彼女。他人の口からあたり聞かない"sorry"を彼女はよく口にすることから、過去に身に降りかかったことを垣間見て、悲しくもなります。笑顔に一点の曇りもなく優しい女の子です。今度は自分にゲームを教えてくれと言われたのですが、なかなか思いつかなくて。そもそも遊ぶってことからも遠く年が離れつつあるし、なんの資材もここにはない。あるのは木々と石ばかり。なので宿題にさせてもらいました。何かアイデアのある方、教えていただけたら大変助かります。彼らほどの好奇心と柔軟な思考、取り戻したいものです。何も持っていなくても幼稚園や大小の公園に遊具があるのが当たり前の中で育った僕には、そもそも十分な発想力はないのかもしれません。


彼らは何でも自分で出来てしまうので、自分から手伝えることを探さないと何もせずに1日は終わります。洗濯も自分の服は自分でというスタイルなので入り込む余地もあまりない。桶と石鹸だけでの洗濯なんて無縁の生活をしてきたし、これが結構慣れと力のいる作業です。先述の皿洗いだけはしないと、さすがに自分としても納得ができない。食事が終わるとスポンジを持って待ち構えます。朝昼の皿洗い、少しの洗濯、子供達と遊ぶこと。2日目に主にしたことはこれらですが、なぜかかなり疲れました。ここまで来るのに家から10分歩き、タンザニアのダラダラと同じミニバンのマタトゥに10分、そして10分ほど歩くと学校に着きます。歩くとトータル50分ほどというところでしょうか。初日の帰りは歩いたものの、この日は乗り物の力を借りて帰還しました。なんだこの疲労感は。


インターネットは家の近くにネットカフェと呼ばれるWi-Fiを使えるスペースがあるので、そこで。1分1円とかなり良心的なプライス。2日に1回、1時間ほど行き調べ物や日本と連絡を取ったり、これを更新したりしています。価格的にも週末は長時間お世話になることになりそうです。日本でいうと23時から24時の間だけ、僕はオンライン。全く使えないことは、今のところ想像できません。simカードを手にしたエリックは、基本的に家では寝ているか母国の家族、友人と嬉しそうに電話をしています。気持ちは非常によく理解できますが、どこにいても母国語を使える彼はもう少し強くあれそうなものです。ロングスリーパーで夜は9時に、朝も9時ごろまではベッドにいる。身長が高いぶん、それだけエネルギーを回復する必要があるのでしょうか?ナオミは9時ごろからソファーに横になり、何かをつまみながらテレビを見始めます。居場所に困り、結局僕も10時過ぎにはどうしようもなく眠りにつくのでした。


アイスクリームを久しぶりに食べました。日本では旅行の醍醐味である現地のソフトクリームを食べることもこちらでは簡単ではありません。特に乳製品を口にする時は災厄の事態も頭に浮かぶので。ケニアではある程度いいものを安い価格で買うことができます。不満を述べた食事も、嫌気がしたら外食をすれば何もかも解決できるほどの悩みでしかありません。恐いのは警察と軍人だけです。