迷子の果てに

ブラワヨの地に降り立った僕は、車内で隣だったジンバブエ人の青年に「日本人が1人で歩いても安心?」とたずねる。大丈夫という彼の言葉を信じて歩いて宿に行くことを決意。ヨハネスブルグでの数日間は限られた範囲しか動きがとれなかったのもあって、すこし鬱憤の溜まっていた僕は可能ならば自分の足で移動したかった。バスセンターではWi-Fiが使えたので地図を頭にいれ、「よし、東に向かえばいいのか!」とかなり大雑把な気持ちで出発。


街並みはどこもくたびれている。英領として栄えていたこの国、現在は真新しいものは何1つ見受けられない。以前はどれだけ活気のある場所だったのか、その面影。街路樹が均等な間隔を空けて並び昔は綺麗だったであろう通り。建物も道路も十分すぎるほどにあるのだけれど、みんな多分にガタを抱えている。発展途上の国を訪れたことはあるが、峠を越え寂れているこの風景は僕には新しいものに映った。


マップで見たところ1時間半ほどで着くということだったから、自分の能力を過信した僕は初めて歩く通りを一心不乱に進んでいく。やがてそれがいかに無謀であったか気がつく。21歳日本人、ジンバブエで迷子になる。もちろんスマホは使えないので、すれ違った女性に道を尋ねる。女性がそこにあった家の門番に取り次いでくれる。門番は中にいたシェフに声をかける。シェフは家の主人に尋ねてくれる。バスに乗る場所、バスの行き先、降りるバス停、そこからの行き方、これらを全て紙に書いてくれた。シェフの方は特によくしてくれて、アドレスと電話番号を紙に書いて僕に渡し、バス停のある通りまで一緒に歩いてくれた。なんていい国なんだと感動する僕、でもどうしても歩いていきたい。方向自体は間違ってない、大丈夫。かなり遠いからと反対されながらも持ち前の頑固さを発揮。男性と笑顔で別れ、旅は続く。またしばらく歩いて不安になってきたので同年代くらいの男子2人に声をかける。今思うとこの国の親切さに甘えまくっている。彼らは立ち止まって地図を書いてくれた。なんて親切なんだジンバブエ人。ここでも戻ってバスに乗った方がいいよと言われ、まだそんなにあるのかと思いながらも、戻る気は一切ない。この時点でたぶん半分くらい。バックパックを背負っているので途中で休み休み、もらった地図に従ってようやく宿泊先のある街に到着。中学生くらいの女の子2人組に3度目のアタック。「遠いわよ」と言いながら教えてくれた。別れて歩いていくと僕は道を間違えたらしい、女の子うち1人が走って追いかけてきて正してくれた。もう感謝を通り越して申し訳なかった。「なんでジンバブエ人はそんなに親切なの?」彼女は笑いながら「そういう国なのよ」好きです。僕はジンバブエが大好きだ。日本に帰ったら誰にも理解されなくていい、I love Zimbabweと書かれたシャツを着て歩きたい。決して豊かではないこの国で、この親切さ、モラルの高さは驚くべきものとして記憶されました。


2時間くらいかかったと思う。やっとの事で宿に到着。今まではヨハネスブルグの初日を除いてBooking.comを使ってゲストハウスに泊まっていました。ブラワヨでは低価格の宿が発見できなかったのでAirbnbを使って、今回は2日間のホームステイ。明るいホストが出迎えてくれて「全部お前のものだからゆっくりくつろいでくれ」と言われる。寝室で少し休んでから広い庭をブラブラ歩く。プールがハンモックが緑色の芝生がたくさんの花がここにはある。


椅子に座って、青い空を見上げる。確実に何か病気をくれそうな緑色をしたプール。蝿の羽音が止むことのない寝室。大型犬数頭と猫までいる家。


ここは楽園でしょうか?


道中で木陰に休みながら見た青い空、そして僕にあてがわれたベッドが2つに趣味のいい装飾が施された部屋。


僕はこの場所で果ててもいいと想う。


もしすでに人生のほとんどを消費しきっていたとして、昼間からこの広い庭のどこかに腰を下ろす。弾けないギターをいじり、飽きたら今まで何度も読んだ小説のページをめくり、今までに大切らしく思われたことを字に起こす。それにも飽きたら眠ればいい。この世の楽園、それはブラワヨにありました。多少の疲れからくる感情かもしれない。ホストマザーに借りたパール・バックの小説を読みながら、スマホも使えず、近くに店という店があるかもわからないこの世界で。人の優しさに包まれた昼下がり。

I've got a feeling.

いい訳が思いつかないけど、そんな気分です。


Everybody had a hard year

Everybody had a good time

Everybody had a wet dream

Everybody saw the sunshine, oh yeah

(the Beatles "I'VE GOT  A FEELING"より)



それでも前日のブランチ以来のまともな食事に蝿と犬がたかってくるのを前に、「やっぱり日本最高」と思ったりして。


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