母のおにぎり
日本で最後に食べたのは母の作ってくれたおにぎりでした。
夏休みに帰省した際、世界を周りたいと伝えました。留学などではなくただ旅をするということで、僕も一筋縄ではいかないだろうと波乱を覚悟していました。しかし母は一言「考えてるならいいよ。」とあっさり了承。拍子抜けした僕は持ち前の妄想力で、反抗期散々迷惑をかけたからその時に愛想を尽かされたかなと思ったりしました。
準備のためにアパートを引き払い、久しぶりに実家で一緒に暮らしたこの1ヶ月。以前と同様、母の漏らす小言にうんざりしたり。やっぱり実家にはもう住めないと思ったり。
出発が近づいても心配性の父とは裏腹に、特に態度を変えない母。「早く行きなさいよ。」と何度も言われました。「ああ、わかってるよ。」
それでも出発前夜、寝る前に僕の部屋に来た母は目に涙を湛えていました。そういえば涙腺が緩いのは完全に母譲りだった。そんなんこっちも泣くわ。
やっぱり心配してくれてるんだなって反省して、自分の身はしっかり守って帰って来なければと強く思わされました。
朝起きたら机におにぎりが置いてあって。「持って行きなさい。」って。仕事に行くのを見送る僕にドアが閉まるまで「気をつけなさいよ。」という母。手作りのおにぎりを食べたのは野球部以来じゃないかな。
予想はしてなかったけど、出発する前のロビーでおにぎりを食べながら。これが日本で最後の食事として最もふさわしいのではないかとしみじみ。